小さな人工世界が創る大きなビックリ

皆さんは,たくさんのアリが行列をつくりながら,遠いところにあるエサを巣の中に運んでいる様子を見たことはありませんか? 彼らは,ほとんど目が見えないにもかかわらず,また,全体を取り仕切るリーダーのような存在がいないにもかかわらず,とてもきれいな行列をつくり,効率的にえさ取りを行っています.

このような仕組みは,どのようにして実現されているのでしょう? 実は,彼らはフェロモンと呼ばれる化学物質を使った極めて単純なルールに従って動くことで,この複雑な機能を実現しています.

そこで,アリのえさ取り行動を単純に表現した次のような人工世界を動かし,その様子を見てみましょう.




アリの巣(真ん中にある茶色の丸)のまわりにいくつか(foodscount個)のエサの山(黄色い丸)が並んでいます.巣から出てきたアリ(antcount匹)は,次のような動きをします.

エサを持っていない時(青色):自分の前のフェロモンが多い方向に向かって歩く.ただし,フェロモンが全くない時はランダムに動く.エサのある場所に到着したらエサを一つ持つ.
エサを持っている時(赤色):その場にフェロモンを落としながら,巣の方向に向かって歩く.巣に戻ったらエサを巣に置いて,再び歩き出す.

各場所に存在するフェロモンの量はオレンジ色の明るさ(全くなし=黒-オレンジ-白=最大)で示されています.フェロモンは,時間がたつごとに隣の場所に一定の割合(diffusion)拡散すると同時に,一定の割合(evapolation)だけ蒸発してなくなります.

アリたちはフェロモンを使ってどんな風にエサを集めるでしょうか? Initializeボタンを押して初期化したあと,goボタンを押して実行してみましょう(もう一度goボタンを押すと止まります).

最初はランダムにエサを探していたアリたちが,たまたまエサを見つけたアリの出すフェロモンに引き寄せられるのをきっかけにして集まり,自然に行列ができ,効率的にエサを集める様子が観察できると思います.

それぞれが簡単なルールに従うだけなのに,全体としてきれいな行列ができて,しかも効率的にエサを集められるのって,ビックリしませんか?

この,フェロモンを介したアリ同士の相互作用から生まれる行列は,創発的な現象の代表的な例としてよく知られています.

エサの山の数,アリの数,フェロモンが蒸発する割合,周囲に拡散する割合,巣からエサまでの距離(randomdistance)の設定を変えて実験したとき,集団の振る舞いにどんな影響があるか調べてみましょう.

参考

このアプレットは,たくさんの要素が同時に相互作用しながら動く,マルチエージェントシミュレーションのための開発環境のNetoLogoでつくられています.この開発環境はフリーで配布されていますので,興味のある人は是非一度Webページをのぞいてみてはどうでしょう.いろんな人工世界のサンプルがたくさんありますよ.


お問い合わせ:名古屋大学 大学院情報科学研究科 創発システム論講座 鈴木麗璽reiji@is.nagoya-u.ac.jp