1998年7月9日
有田 隆也

Alife VI の印象

1998年6月26日から29日まで米ロサンゼルス(UCLA)で開催されたSixth International Conference on Artificial Lifeは、人工生命に関する研究を発表、議論するもっとも重要な場を提供してきた国際会議の第6回目である。参加者数は初回の会議の人数150の倍近くであったと思われる。

初日の午前と午後は、さまざまなトピックスを扱ったワークショップが10程度開かれ、小さな部屋でさまざまな議論がなされたり、新しい情報が明らかにされた。 私は、人工生命研究領域の開拓者であるC. Langtonが現在深く関わっている人工生命研究のための研究環境であるSwarmに関するワークショップ(C. Langtonによる一般的な話の後、Windows-NTへのインプリメントの話など)、 および、Tierraの後継モデルであり研究プラットフォームとしての意味を持たせている(今回の会議のオーガナイザであるC. Adamiらのグループが開発中の)Avidaに関するワークショップ(基本的な話、さまざまな使用例の報告、C. Adamiによる複雑性と適応度の関係に関する切れ味のよい話)に参加した。

2日目から通常のプレゼンテーションが始まった。だいたいのスケジュールは、午前が招待講演(3本が45分ずつ)とプレナリセッション(9本が45分ずつ)で、午後が一般セッション(29本が30分ずつ)が2つずつパラレルに開かれた。夜はデモンストレーションポスター発表のほか、ロボットショーやバンケットなどのイベントが連日夜遅くまで開かれた。

フルペーパーとして口頭発表した本数がここ数回の会議にくらべて、ややしぼられたため、全般に、比較的粒のそろった発表という印象を受けた。質疑応答もまずまず盛んであったということができる。

本会議の内容に関して、全体的な印象をまとめると、次の通りである。

  1. 招待講演などの構成も含めて、全体に生物学よりになってきている。生物学と計算機科学を結び付けるような最近の新鮮なトピックスにおける人工生命的手法の有効性を感じさせる。
  2. 生物学にとどまらずに、さまざまな分野、たとえば、経済、言語、化学、工学などの領域における人工生命的見地からの研究が依然として広がってきている。
  3. 人工生命研究の出発点とも言える「ありうる生命」に関する研究もさまざまな形で続けられている。
  4. 応用に関わる研究、たとえばロボティクスや人工知能などに関する発表は過去2回の会議にくらべて減った。今回の主催者の意図、及び、他の国際会議への移行なども原因として考えられる。
自分の発表があったり、セッションチェアをやったりで聞きたい発表をよく聞けなかったなどの面はあるが、気になった発表をいくつかあげると、以下の通りである。L. BarnettのNK Landscapeの拡張、佐山のLangtonのループへの死の概念の導入、C. AdamiのAvidaを用いた遺伝子型の分布やべき乗則に関わる解析、T. RayのTierraのマルチスレッド(多細胞生物)化、J. Nobleのシグナリングの進化に関する進化実験などであった。


付録(写真)