知能機械概論-お茶目な計算機たち

第98回
誌上特別集中講座「真面目な ネットサーフィン入門」

第1日

1時間目
 では、みなさん、これからWWWの入門 講座を始めます。WWWとはWorld Wide Webの略で、文字通り、インターネット上、 つまり世界中にくもの巣のようにはりめぐ らされた分散型のデータベースのことです。 分散型というだけでなく、マッキントッシ ュのハイパーカードのように、マルチメデ ィアにも対応して、絵や音や動画も扱えま すし、また、マウスでどこかをクリックす ると別のデータに飛ぶというように、ハイ パーメディア型にもなっています。

 それにしても、最近のWWWの流行はす ごいですね。大会社や大学が使うだけでな く、新聞社などのメディアから、街のうど ん屋までという時代ですからね。ニュース ステーションでもWWWを使ったアンケー トをやってますしね。

 でも、いちばん面白いのは、単に組織が 宣伝のために使うというだけでなく、それ らと対等に、一個人が自由に自分をアピー ルするために使うことができるという点で しょうね。

 フランス核実験反対を訴える東大の大学 院生数人のWWW上の呼びかけに対して、組 織的な力なしに4万人、5万人という人が 賛同の署名を行ったというのはきわめて象 徴的な、それこそ歴史的なできごとですね。 政治的な方面に限らず、社会、文化、経済 などあらゆる場面で一個人が主体的な力を 出し得る場となり得る可能性がもしかした らあるのかもしれませんね。

 というわけで、この集中講座では、 WWWに関する基礎的な考え方から、最後 はWWW上で自由に情報を発信するまでを やってみたいと思います。WWWを使う環 境にない人も少なからずいらっしゃると思 いますが、今回の講座では、WWWを使え るということを前提として講義を進めます ので悪しからず。

 今では、比較的簡単に家庭からインター ネットにアクセスできるようになってきま したし、たぶん、これからもそういうチャ ンスはどんどん広がると思います。

 どうして、WWWを使える人を対象にし ているかというと、それはいうまでもなく、 体で実際に慣れるのがいちばんだからです。 しかも、一からここで全部お話ししてたら、 たったの3日では足りなくなってしまうか らでもあります。たとえば、後で出てきま すが、HTML言語の入門に関しては、私が ここでお話しするよりは、WWW上にとて もわかりやすい教材がありますので、それ を見てもらったほうが早いからです。いい ですね。

 では、そろそろ「真面目なネットサーフ ィン」という題目の「真面目な」たる部分 に入ることにしましょう。知っておかなけ ればならないマナーとかルールに関するこ とです。

 まず、インターネットは世界中の膨大な 人がアクセスする場であり、したがって、 公共性の高い場であるということを強く認 識する必要があります.ですから,一般の 法律が適用されうる場であるということを 強く認識する必要があるのです.いいです か、そこの眠そうな顔をしたお兄さん。

 わが国の法律に関連して考えるならば, たとえば,著作権侵害とか,猥褻とか,名 誉毀損等について、よくよく意識しなけれ ばなりません。実際、インターネットで手 に入れた画像を売買してつかまった大学生 だっているのですよ。気をつけてください ね。

 外国でよくても日本で駄目だとか、逆に 日本でよくてもほかの国では駄目だとかい うこともありますしね。要するに、さまざ まな価値基準や法律体系をもった国々への アクセスやそのような国々からのアクセス が自由に行われるインターネットでは,個 人個人の理性が日常生活以上に問われると いうことなのですね.

 では、もうちょっと具体的にまとめてお きますので見てくださいね。ここで、ブラ ウジングというのは、WWWのデータ(ホ ームページ)を読みにいくことです。ホー ムページ制作というのは、WWWのデータ を自分の計算機の中に書いてそれを公開し て、よそからの読み出しを許すことです。

[ブラウジングの際の注意事項]

○技術的な制約
トラフィックを増やすので,画像,音声, プログラム等,データ量の大きいものはみ だりにはもってこない.

[ホームページ制作に関する注意事項]

○技術的な制約
トラフィックを増やすので,画像,音声, プログラム等,データ量の大きいものはみ だりには入れない.
○道徳的な面からの制約
公開を希望しない他人のページ / データ, あるいは,問題のあるページへのリンクは しない.
悪用されたくないデータは入れない.
○本集中講座の主旨からの制約
お金の授受行為につながる表現はしない. 公開を原則とするのでパスワードを入力さ せて一部の人だけにデータを見せることは 望ましくない.
特定の宗教や政治組織の利益/不利益に関わ る表現はしない.
特定の企業の利益/不利益に関わる表現はし ない.

 最後の「本集中講座の主旨からの制約」 というのは、この集中講義を受けているみ なさんがたとえばいきなり私の目の前で商 売とか始められては、私のこの講座の主旨 に反することなので、とりあえずやめてく ださいということです。一般的なルールで も何でもないので、誤解なく。仲間内の連 絡にパスワードを入れさせるとかだって、 別にふつうのことのようですし。

 では、ここでちょっと休憩。

2時間目
 それでは、WWWの基礎的な技術を簡単 に説明しましょう。まず、この図を見てく ださい。ハイパーテキスト、文章だけでな いときは広くハイパーメディアといいます が、これは、複数の文書(データ)がリン クによって結び付けられて構成されていま す。それぞれの文書はHTML (Hyper Text Markup Language) という言語に よって記述されています。

 プログラミング言語というのは基本的に ある計算をコンピュータにさせる場合の問 題の記述のためにあるものですが、HTML というのは、MosaicやNetscapeなどの WWWデータを表示させるためのブラウザ (ヴューアとか、WWWクライアントとも いいますけど)、これがそのデータをどの ように画面に表示するかとか、ある部分を マウスでクリックするとどこのデータの表 示に移るとかを規定します。

 この図では、丸く囲ったところに4つの HTML文書があります。そして、HTML文 書1の中の「あれこれ」という文字列をク リックするとHTML文書2の表示に移り、 また、「xyz」というところをクリックす るとHTML文書3の表示に移るわけです。 簡単ですね。このような「あれこれ」や 「xyz」のことをタグと呼びます。

 飛び先として、単に、HTML文書4とす るだけでなく、その文書の中の「zzz」と 書かれた位置から表示するというように、 細かく場所を指定することができます。で すから、同じ文書の中の別の場所を指定す ることもできます。たとえば、ひとつの文 書の中で冒頭に目次があって、そこから各 章にリンクするというような使い方はよく 見られますね。

 あと、大事なことは、公開されている WWWデータならたとえ外国の計算機の中 のデータでも、まったく同じようにリンク することもできることです。ですから、マ ウスをクリックしていると気づかないうち に、別の計算機の中のWWWを見ているな どということはしょっちゅうあります。世 界規模のくもの巣はこのようにリンクし合 うことによってできあがっているのです。

 では、もうひとつ図を見てください。今 度はWWWデータを見る場合に具体的には どういう手順を踏んでいるのかを説明しま す。

 みなさんが、MosaicやNetscapeにおい てマウスでクリックして別の文書を読み出 そうとすることを考えます。そのとき、 HTML文書内には、URLという形式でその ファイルの所在やデータを自分のところに もってくる通信形式が書かれています。た とえば、

http://www.nagoya-u.ac.jp/index.html

と指定するならば、www.nagoya- u.ac.jpで指定されるサイト(計算機)の 中のindex.htmlという名前のファイルを http方式(html文書の標準的な通信方式) で持ってくるということを意味します。

 さて、インターネット上を伝わって、 www.nagoya-u.ac.jpで表される計算機 に要求が伝わったとします。データを公開 する計算機上では、要求に応じてデータを 送り出すプログラム(WWWサーバ)が動 いています。これが、ちゃんと、 index.htmlという名前のHTML文書を送 り返すわけです。要求を送った側にHTML 文書が届くと、あとはその文書に書かれて いる通りに画面上に表示するだけです。

 ですから、みなさんが使っている計算機 がインターネットに接続されているならば、 ブラウザソフトを走らせれば、いわゆるネ ットサーフィンができて、世界中のデータ を読むことができます。さらに、自分でデ ータを書いてそれを世界中に公開したいな らば、たとえば、httpdなどという名前の ついたWWWサーバソフトを走らせればい いわけです。

 ブラウザだけでなく、サーバソフトもマ ックなどのパソコンで走るようになってき ました。ただ、いつも読めるようにするに は、パソコンを一日電源をつけて、インタ ーネットに接続しておく必要がありますし、 別の重いプログラムを走らせると、読み出 しにとても時間がかかってしまうので役不 足感がしないではありません。

3時間目
 では、初日の最後の時間では、HTMLに 親しんでもらうことにしましょう。さあ、 みなさん、勝手に実習してみてください。 エディタでHTMLの文法に従って何かファ イルを作ればいいのです。そして、思った とおりに表示されるかどうかは、ブラウザ から、OpenLocalとかOpenFileなどのメ ニューを選んで、そこで作ったファイルを 表示させればいいのです。これだけならば、 別にネットワークにつながっていないパソ コンででもできますよ。

 といっても、HTMLの文法を知らなくて は駄目ですね。でも、そんなに難しいこと はありません。まあ、新しいワープロを使 うと思ってくれればいい程度のことです。

 ただ、ふつうのワープロとは2点だけち がうと思ってください。ひとつは、HTML は構造を明示的に指定する必要があるとい うことです。ですから、たとえば、2行空 白を入れたいからといて、ファイルの中で リターンを2回入れておいても、ブラウザ は無視してまうということです。改行なら ば改行というマークを印を入れる必要があ るし、箇条書きで項目を列挙するときも、 そう指定すれば、字下げをしたり、項目の 頭に適当な記号や数字を入れてくれたりす るのです。

 もうひとつは、何といってもリンクです。 ある文字列をクリックと別のHTML文書な どに移ることを指定することができること が、ハイパーメディアたるゆえんですから ね。これは、URLで指定すればいいのです。

 うーむ、これだけでは、やはり何もわか りませんね。では、いちばんの近道を教え ましょう。それは、人のHTML記述をパク る、ではなかった、参考にすることです。 NetscapeでもMosaicでも、View Source というコマンドがあります。これは、 現在表示しているページのHTML記述を見 せてくれるものです。ですから、それを参 考にして、自分用に修正すれば、ハイ出来 上り!というわけです。

 ブラウザで見ているということは、その HTML文書全体を自分の使っている計算機 の中に持ってきているということを意味す るのだということは先ほどの図で説明した 通りです。ですから、このようにHTMLの 記述自体も全部見ることができるのですね、 いうまでもなく。

 ああ、そうですか、やっぱり、何かきち んと文法の説明が書いていない不安ですか。 確かに、そうですね。文法ミスがあるごと にブラウザがエラーとして止まってしまっ ては、うっとうしいので、ブラウザは超寛 容にできています。だもんで、それに慣れ てしまって、まったく、文法を無視したハ チャメチャなHTMLを書いていても、知ら ずにそれを堂々と公開している人もいくら でもいますからね。そんなの参考にしては、 そのうち痛い目にあいますから。

 たとえば、初心者にもお勧めなのは、「初 心者向けHTMLガイド」ですかね。これは、

http://www.ntt.jp/docs/html-jman

ncsa-j.htmlにありますから、OpenURLで これを指定して見てください。わかりや すいと思います。

 では、残りの時間はHTMLを書いてみる 実習の時間にあてることにしましょう。明 日の1時間目までには、簡単な自己紹介ぐ らい書いてあるホームページを作っておい てくださいね。くれぐれも、著作権とかそ ういうのには注意すること。歌詞の引用と かにも気をつけてくださいね。

第2日

1、2、3時間目
 朝イチでくどくど説明しても、みなさん 眠そうなので、ここで突然ですが、みなさ んに課題を出しましょう。これです。

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課題1
「日本の大学におけるWWWを利用した情 報発信の現状」に関係する内容でレポート を作りなさい。レポートはHTMLで記述し、 適切にタイトルをつけること。
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 近所の数人ずつグループになって、分業 してひとつのレポートを作ってください。 各メンバーのホームページからひとつのペ ージにリンクを張って、そのページを表紙 にしてください。タイトルと名前も表紙の ページにつけること。テーマは自由に設定 していいですよ。せっかく、HTMLで書く のですから、題材にしている大学のページ へのリンクも当然盛り込んであったほうが いいですね。

 あと、大学のページをどうやってみつけ るかということですが、そうですね。じゃ あ、WWWのページをもっている大学の一 覧表が載っている場所を2ヶ所あげますか ら、そこから、興味のある大学をたどって 調べてください。

 ひとつは、毎日新聞のページの中にある もので、場所は、
http://www.mainichi.co.jp/server/ education/university.html
です。もう、ひとつは、 富山大学の中にある一覧表で、場所は
http://www.toyama-u.ac.jp/hmt/scs/jpnunij.html
です。あとは、テーマを決め、分担を決め、 最後に結果を合わせればいいわけです。

 昨日はしゃべりすぎて、ノドが痛いのであ とはグループごとに自由に作業をすすめて ください。私は部屋で休んでますので、用があった らメイルで知らせてください。アドレスは、 これです。

 まあ、そうですね、たくさんありますが、 YahooとWebCrawlerがとりあえずお勧め できるでしょうね。Open TExtもよさそう ですし.じゃあ、ここで練習の ために、みなさんにWebCrawlerを使って みてもらいましょう。URLを入力してみて ください。ここにあげたリストをページに してありますので、そのページを出しても らえれば、クリックするだけで行けますよ。

 WebCrawlerはサーチエンジン型ですか ら、検索したいキーワードを入力すると、 その単語にマッチしたページが一覧表に出 るので、そこでクリックすればすぐにマッ チしたページのあるWWWサーバにアクセ スに行って読み出してくれます。

 では、まあ、例題として、「野茂」でい きましょう。野茂に関係あるページを表示 させることができた人は手を挙げてくださ い。

 NHK衛星の中継を見るときは必ず打ち込 まれるので最近は見ないようにしてるので すけれど、まあ、それは、..、おっ、もう 見つけられましたか? あー、いちばん有 名な「トルネードボーイ」のページをみつ けましたね。ほかにも、あるでしょ、ね。

 WebCrawlerはほんとうに強力ですよ。 "Arita"と試しに入れたら、自分のページ がいちはやく登録されていて、ずらっと出 てきたのには驚きましたよ。24時間世界中 のデータを自動探索してキーワードを登録 し続けているのですからね。みなさんのペ ージもそのうち登録されるでしょうから、 日本語のページだけでなく英語でも書くと いいですよ。

 では、しばらくいろいろなページを探し てみてください。サーチエンジン型ではな くナビゲータ型のもなかなか有効ですよ。 あと、(Japan)と書いてあるのは、主に日 本のデータが登録されているものでして、 日本語でキーワードを入れて、探索するこ ともできますから、試してみてくださいね。

2、3時間目
 それでは、2つめの課題を出すことにし ましょう。これで終わりです。

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 次のようなタイトルをつけて,特定のテ ーマに深く絞り込んでそれに関するWWW 上のデータを探し,解説(評論)とともに 紹介すること.

 *に興味がある人のためのWWWガイド
 *について知りたい人向けWWW案内
 *に関するWWW情報について
 いわゆる「リンク集+アルファ(こっち が重要)」をHTMLで書くということだが、 あまり知られていないようなデータを自分 で発掘すること.なるべく海外のデータ中 心にする.
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 1つめの課題とはちがって、みなさん完 全に趣味の世界に走って結構です。自分は これに関しては通だとか、ファンだとか、 何かあると思いますけれど、それに関して、 前の時間で示したようなデータベースを使 って効率的にデータを探してみてください。  探すだけでは駄目ですよ。そのデータを

よくよく吟味して、きっちりと自分のこと ばで、評論や解説を加えてくださいね。新 たな情報を付加するところに大きな意味が あるのですよ。つまり、自分で世界中から ある特定のテーマに関するデータを集めて くる、そして、それを独自の観点から加工 して新たな情報を付け加える、最後にそれ を世界中に公開する。これで、まがりなり にも、情報処理のひとつの「フルコース」 なのですからね。

 さあ、みなさんの奮闘を期待して待って います。自分のホームページからリンクを 張ってたどれるようにしてくださいね。期 待して待ってます。締切は今日も5時にし ます。時間がないですけれど、がんばって ください。

(午後5時ごろ)
いやー、みなさん、すごく凝ってますね。 ここまでのめり込んでやってくれるとは思 いませんでした。本当にご苦労様でした。 と私が話しているのに、ほとんど、こちら の話も聞かずにMosaicしてますね。まあ、 いいや。

 3日間に渡った講座ですが、これは実は リピートでした。この業界では、同じ内容 で別の人相手に講義することを、リピート と呼ぶらしいのですが、この内容で実は名 大情報文化学部の2年生に対して、暑い真 っ最中の8月にやったのでした。

 そのときも、みんなすごく熱中してやっ てくれました。最初の課題こそ、まだ、 MosaicやHTMLに慣れていなかったせい もあって、それほどの出来ではなかったの ですが、2つめの課題で個人個人でいわゆ る「ネットサーフィン」し始めたら、皆さ んと同じように、すごくのめり込んでしま ったのですね。

 採り上げたテーマもなかなかユニークな ものが多く、どうせ、プロ野球、車、サッ カーぐらいで、半分近くいってしまうので はないかと、思っていたのですが、なんの なんの、てんでバラバラで突拍子もないも のが多くてびっくりしました。

 中には,かなりマニアックというかカル ト的なのもありました。漫画関係で銃夢 Home Page in Japanなどというのを作っ た学生もいましたしね。ほとんど皆、最初 はWWWとかMosaicとかHTMLとかを触っ たこともなかった人たちなのにが3日間で ここまでというのですからそれなりにおも しろかったのでしょう。

 見たい人は、 ここにありますので参考にしたい人は見てくだ さい(ドメイン名の手続きに手間取ってい るせいもあってIPアドレスむきだしですみ ません)。

 学生の作品だけでなく、紹介したサーチ エンジンなども登録してあります。初日に 示した注意事項をくれぐれも忘れないで、 おもいっきり自由でぶっとんだページをみ なさんも書いてみてください。では、3日 間ご苦労さまでした。